スポーツを活用した共感ストーリー
繰り返しになるが、芝生そのものを日本に持って帰ったところで用途はないので価値はない。芝生が生まれたストーリーに共感したから欲しくなるのだ。スポーツにおいて、このような事象は多く見られる。
高校野球を見てなぜ人は涙を流すのか(高校時代という限られた時間で夢を叶えることに一生懸命な姿への共感)、なぜ大谷選手の全打席が日本中で放送されるのか(大谷選手の二刀流という誰も成し遂げていないことに挑戦する姿への共感)などだ。
スポーツは、こうした“共感ストーリー”をつくりやすい。それはスポーツ自体が究極のコトビジネスだからである。この特性を利用して、共感ストーリーをつくることが、マーケティング活動においてスポーツを活用する上でのポイントの一つである。
なお、バルセロナと関係の深いヴィッセル神戸には、ぜひ芝生を販売してほしいと思う。「イニエスタが踏んだ芝生」には、可能性を感じる。
実際に企業がスポーツを活用した共感ストーリーをつくり、マーケティング活動に活用している事例をご紹介したい。なお、残念ながら、国内において、「これだ!」という事例はまだ少ないのが実態である。
応援したい競技にマイルを寄付
JALが取り組んでいる「NEXT ATHLETE MILE」をご存知だろうか。
2014年6月から開始した取り組みで、自分の応援したい競技にマイルを寄付できる仕組みである。2018年9月3日時点で2010名のサポーターが登録し、1024万4000マイルが寄付されている。
寄付できる競技も増加しており、ウエイトリフティング、パラ陸上、ライフル射撃、陸上、セーリングなど20競技が対象となっている。ちなみに2000マイル寄付するとそれにJALが同等のマイルを上乗せして、競技団体に寄付されるということだ。
JALは「挑戦する人の、翼になりたい」というコピーを打ち出している。ここには、「挑戦する人の翼になりたい=夢に挑戦するアスリートを応援したい」という共感ストーリーがみえる。「夢に挑戦するアスリートを応援しますか?」という質問に「応援しない」と回答する人は少ないだろう。
スポーツは共感ストーリーをつくりやすいのである。他の例えだと、そう上手くはいかないのではないだろうか。
なお、この取り組みによって売上増加の効果があったかは定かではない(そのようなデータはない)。ただし、この取り組みを知ることで、共感する人は多いと推測できるし、その人たちがJALファンになる可能性もある。加えて、支援を受けている競技側は移動時にJALを利用しようという気持ちになるかもしれない。
このJALのような取り組みを、企業が自ら企画することも、スポーツ側からの企業に提案することも少ない。
冒頭に書いたとおり、スポンサーシップのあり方としてロゴを掲出するだけでいいのか?という疑問を持っている企業に対し、スポーツ側が自らのコンテンツを活用して、その企業に合わせた共感ストーリーをつくり、企業課題、マーケティング課題の解決につながるような新たなスポンサーシップの提案をしていくことも有効ではないだろうか。