IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、VR(仮想現実)……。さまざまなテクノロジーが日々「進化と深化」を続け、多くの業界がテクノロジーを活用してビジネス課題の解決を模索している。スポーツ業界でもそれは同様で、競技力の強化やマーケティングの効率化、ファンエンゲージメントの向上など、あらゆる分野でテクノロジーの導入が進んでいる。

変化の激しい「スポーツ×テクノロジー」は、今どのような状況にあり、今後の潮流はどう移り変わっていくのか。2018年5月に、4日間にわたって開催された「スポーツビジネス創造塾 第2期」(主催:日経BP総研 未来ラボ)に、「スポーツ×テクノロジー」の最前線に立つJリーグデジタル デジタル戦略担当オフィサーの濱本秋紀氏(講演当時は、SAPジャパン イノベーションオフィス 部長 スポーツ産業向けマーケティング支援担当)と、ソニーグループの山本太郎氏(ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ スポーツセグメント部 担当部長/ソニーPCL スポーツ事業推進室 室長)が登壇。両者がこれまでに携わってきたスポーツ×テクノロジーに関する取り組みと、これからのトレンドについて語った。その一部をレポートする。

5月に開催された「スポーツビジネス創造塾 第2期」の様子。

3つの領域でスポーツを支えるSAP

ドイツに本社を構え、企業向けの基幹業務システム(ERP)などを開発する世界有数のソフトウエア企業SAPは、スポーツをはじめとするエンターテインメント向けのソリューションを多数手掛けている。

スポーツ分野における取り組みの特徴は「チーム(選手やチームのパフォーマンス強化)」「ファン(ファンエンゲージメントやマーケティングの強化)」「オペレーション(スタジアム・アリーナやイベントオペレーションの強化)」、つまり「する・見る・支える」というスポーツビジネスを構成する3つの領域のソリューションをそろえていることだ。それぞれの領域での取り組みについて、濱本秋紀氏(講演当時はSAPジャパン、現在はJリーグデジタル デジタル戦略担当オフィサー)は次のように説明する。

濱本秋紀(はまもと・あきのり)氏
Jリーグデジタル デジタル戦略担当オフィサー。SAPジャパンのマーケティング部門でコーポレートイベント・ブランディング・スポーツスポンサーシップ・デジタルマーケティングなどの責任者、製品マーケティングの企画・実施、ユーザーグループの企画・運営などを経験。2016年より、プロスポーツクラブのマーケティング・ファンエンゲージメントを支援し、スタジアムソリューションの事業開発などを担当。2018年8月から現職。

濱本 「チーム領域では、例えば『SAP Sports One』というソリューションがあります。2014年のFIFAワールドカップで優勝したサッカー・ドイツ代表と共同開発したもので、チームのトレーニングデータやフィジカルデータ、パフォーマンスやスカウティングデータの管理などを総合的に支援できます。

ファン領域では、ドイツ・ブンデスリーガのバイエルン・ミュンヘンと共に、さまざまな顧客データを収集・分析し、そのデータを活用するシステムを構築しています。分析結果は、同チームの本拠地『アリアンツ・アレーナ』でファンエンゲージメントを高める施策に活用されています。

またオペレーション領域では、ドイツのアイスホッケーチームであるアドラー・マンハイムの本拠地『SAPアリーナ』で、スマートフォンアプリを活用して購買行動を把握・分析し、商品購入を勧めるマーケティングを実現しています」

このような形で、SAPは世界で約800のスポーツ組織に同社のソリューションを提供している。ただ、それらの多くはスポーツ業界のためだけに開発したソフトウエアではなく、一般企業に提供しているものをベースにしているという。そうした経験から、濱本氏は「スポーツ業界にテクノロジーを提供する場合、スポーツ専用の開発やカスタマイズが必ずしも必要なわけではない」とも話した。