ソニーがスポーツにもたらす価値

山本太郎(やまもと・たろう)氏
ホーク・アイ・ジャパン 代表/ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ プロフェッショナル・ソリューション&サービス本部 スポーツセグメント部 担当部長/ソニーPCL スポーツ事業推進室 室長。米国の大学卒業後、ソニー入社。通算18年の海外駐在で、主にセールスマーケティング及び新規事業立ち上げ業務に従事。担当したカテゴリーは多岐にわたる。直近では、2013年よりインドにおけるスマートフォン事業を統括し、2016年4月に帰国。各国でのスポーツ関連スポンサー業務、審判判定支援サービス、スタジアムエンターテインメントに関わり、多くのスタジアムを訪れスポーツ観戦も楽しむ。現在は審判支援技術やそのサービスを提供するホーク・アイ事業のグローバル展開を主に担当。

濱本氏に続いて登壇したのは、ソニーグループでスポーツ関連のビジネスを担当する山本太郎氏だ。ソニーグループでスポーツビジネス向けテクノロジーのグローバル展開などを担当している人物だ。

ソニーは、UEFAチャンピオンズリーグをはじめとするスポーツイベントやチームのスポンサー活動に加え、日本フットボールリーグ(JFL)のソニー仙台を抱えるなどスポーツ分野への関わりが深い。さらに、本業であるテクノロジー開発の側面でも、イベント中継のシステムや映像処理、IT関連の技術でスポーツ分野に貢献している。

ソニーがスポーツ分野に提供している価値は大きく4つある。「スポーツコンテンツ制作」「競技の質向上・選手サポート」「新しいスポーツ視聴体験」「ファンとの関わり方」である。例えば、「新しいスポーツ視聴体験」の領域では、VR向けのヘッドマウントディスプレー「プレイステーションVR」を用いた試合の視聴システムを開発している。通常のテレビ放送などでは見られない角度からの映像を視聴者に提供する試みだ。

山本 「 『海外で開催される試合を見に行きたいけど、時間もお金もない』という方は多くいると思います。VRを活用すれば、そうした人に新しい観戦体験を提供できます。スタジアムの収容人数には上限がありますが、リアル観戦の上限を超える人数のファンにVR観戦というチケットを販売できるようになるでしょう。例えば、企業向けのVIPルームからの観戦映像などをVRで提供できれば、離れた場所にいる顧客に特別な情報やコマーシャルを流すようなブランド向上の取り組みも実現できます」

競技の質向上だけではない「ホーク・アイ」

ソニーがスポーツ分野で提供している4つの価値の中で、特にインパクトを与えているのは「競技の質向上・選手サポート」の領域だ。代表的な例は、テニスのライン判定システムなどで知られる「ホーク・アイ」のサービスである。2011年にソニーが買収した英国のホーク・アイ・イノベーションズという企業が開発した技術を用いるサービスだ。

山本 「ホーク・アイは、ボールトラッキング技術やビデオリプレー技術によって審判の判定を支援するサービスを提供します。最初はクリケットで採用されましたが、その後、テニスやサッカー、自動車レース、競馬などでも導入されています」

テニスやサッカーではボールがラインを割ったか否かを判定するためにボールトラッキング技術が活用され、自動車レースでは自動車のサイズチェックのためのスキャニング技術、競馬では斜行をビデオ判定するなどのサービスを提供している。特筆すべきは、ホーク・アイが競技の質の向上や公平性の担保に加えて、ファンエンゲージメントの向上や試合のあり方に影響を及ぼしているという点だろう。例えば、テニスの大きな国際大会では、1セットに3回までの「チャレンジ権」(判定に異議を申し立てる権利)が選手に与えられている。その判定を補助する技術がホーク・アイのボールトラッキング技術だ。

山本 「テニスでは、ホーク・アイによる判定にあえて時間を使って、観客に判定のコンピューターグラフィックス映像を見てもらっています。本当は瞬時に計測して判定が出ているのですが、CG映像を見る時間を設けることで観客は判定のプロセスを楽しめる。これによって、観客は試合に没入できますし、観戦する楽しみが増していくのです」

実際は瞬時に判定できているので、ホーク・アイは試合時間を短くすることにも活用できる。2017年に開催された21歳以下の国際大会では、ライン判定のすべてをホーク・アイのシステムが行い、選手にチャレンジ権を与えないという形で実施した。そうすることで試合時間を短くし、その分の時間を他の施策に充てられるようになったという。

スポーツ×テクノロジーにこそ大きなチャンスが眠る

山本氏は、最後に次のような言葉で講演を締めくくった。

山本 「ソニーはさまざまなテクノロジーでスポーツに関わっていきたいと考えていますが、我々だけではすべてを完結できません。他のサービスや、他の業界の方が持つアイデアを掛け合わせることが新たなサービスの創出につながります。ですから、是非ともアイデアをいただきたい。もちろん、逆に我々もアイデアを提供していきます。さまざまな業界と連携することで新しいものを生み出し、スポーツ界を盛り上げていきたいと考えています」

この日の講演では、濱本氏、山本氏ともに「他社との協業の重要性」を強く訴えた。スポーツビジネス創造塾では「グローバル」「ヘルスケア」「まちづくり」「テクノロジー」という4つの分野とスポーツの関わりについて講師や受講生が議論したが、いずれの分野でもテクノロジーは必要不可欠の存在であることが明確になった。「スポーツ×テクノロジー」には大きなビジネスチャンスが眠っている。

【参照元】
日経XTECH:https://xtech.nikkei.com/dm/atcl/feature/15/070800035/091700068/?ST=SIO-bus&P=3